Sponge Mind

日常と非日常の触発ブログ

花火大会なんて…

   夏の風物詩といえば、何を思い浮かべるだろうか。スイカ、海、ビーチバレー、電車に漂う芳醇な汗のにおい、露出度高めの衣服、セミ、コオロギ…思い浮かべるだけで山ほどある。中でも若い頃の私が一際関心を持っていたのは、花火大会だ。

 

   花火大会は、自分だけでなく、周りにいる人たちの多くの視覚と聴覚を独り占めする。つまり、人間の感覚機能の大半を担う目と耳を一瞬で独占するのだ。花火大会以外で同様の例といえば、ライブや選挙演説くらいか。どちみち、強烈な状況だと思う。若い時分は、打ち上げられた音や、夜空をキャンバスに繰り広げられる絵のストーリー展開がたまらなく好きだった。目を輝かせて深いため息をついていたのが、つい最近のことのように思える。

 

   先頃1人で訪れた花火大会にて、花火だけでなく、人の動きも一つの作品だなあと感じた。花火が空を彩り、浴衣や人の賑わいが地上を彩る。花火大会が始まると人の動きはぴたりと止み、花火が終わると動き出す。鮮やかさ、そして静と動が、ほんの1時間もない間に引き起こされる。花火は芸術だ。が、花火に魅せられる人たちもまた芸術だ。

 

   一方で、花火に魅せられていた若い頃の気持ちがほとんど失せてしまっていたことに気づいた。昔のように花火だけを見ていればよかったのだろう。なのに、あろうことか暇があれば周りを見渡すようになってしまった自分には、人々の方が強く印象に残った。

   花火大会に来るのは、圧倒的にカップルや家族連れが多い。彼ら、彼女らが楽しそうに歩いているの光景を見ると、誰にも求められない自分を情けなく、空虚に感じてしまった。現実世界での心の拠り所は、まだ見つかっていないな、と。何をすれば異性から好意を持たれるんだろう。お互いどんなところに魅力を感じたんだろう。性別上で何ら価値のないとみなされている今の立場を受け入れ、私はこのまま時間が過ぎるのを待っているのだろうか。不安だ。そう思えば、目の前の人たちは本当に凄い人たちなんだと尊敬する。女性として見られるために服装を工夫し、それに惹かれた男性と遊びまくれば私の気は晴れるのか。浅はかな考えであることは承知している。

   女性には消費期限がある。私の消費期限はあと数年かもしれない。この期間で、女性としての価値が認められなければゲームオーバーだ。消費期限が過ぎようものなら、誰からも女性として必要とされない。ただし、その後は私の人柄や考えを必要としてくれる人が周りに残るだろう。タイムリミットはすぐそこだ…。陰鬱な気分を感じる一方で、いっそのこと楽しんでやろうという気もある。沈んだ気持ちのままで過ごす自分にうんざりすることもあり、近頃は前向きに独身生活を楽しむよう心を入れ替えている。ただし、花火大会だけがその気持ちを一瞬で奪い去った。

 

   また、花火大会は人を浮かれさせる。浮かれていることが悪いとは思わないが、人をダメにさせると感じる一幕があった。

   それは花火大会当日、人の流れに逆らい、現居住地へ戻ろうと電車を待っていたときだった。人ごみの中から、ふと何かを叩く規則的かつ耳に刺さる音が聞こえる。周りは知ってか知らぬか気にするそぶりもせず、まるで私の耳だけに響いているようだった。階段から現れたのは、白杖を手にした盲者だ。誰も気づかない。誰も点字ブロックの上から離れない。彼の進行方向にいたのは若者カップル。全く動かない。なぜだろうか。疑問に思っていたのも束の間、その方はカップルの男性に衝突した。その男性は気づかない。なぜなのか。花火大会がここまで人を狂わせるのか。浮かれる度が過ぎている。憤りを感じ、急いで行く手を塞ぐ男性の肩を叩いて道を開けさせた。本当に腹が立った。盲者からすると、そういうのは日常的なのかもしれない。が、人が数多く集まる花火大会ではかなりの障害物が増えるため、いつも以上にストレスを感じていたに違いない。こんなイベントさえなければ。花火大会なんて。

   後日談。母と電話した際、花火大会が人を狂わせるという上記の旨を話したところ、「そんなに怒る意味がわからない。」と。その状況に面した人ではないと分からないことなのか、いやはや私が異常なのか。「なぜカップルの男性に声をかけたのか?逆上していたらどうするつもりだ?そんなの、今度から見て見ぬふりしなさい。」との指摘も受けた。私のことを心配したい気持ちはわかる。しかし、世の中は腑に落ちないことだらけだ。私も傍観者の一員になれというのか。また同じ状況に出くわしても、私は同じように行動する。上っ面の良心と思われてもいい。ただ私は、その時の素直な気持ちに従いたい。

 

   つまるところ、花火大会ほど気分を左右される行事はない。花火大会なんて…と先日だけで何度思ったことか。花火「大会」は私の心の闇のトリガーだ。